OCB方式 - ディスプレイ解説

OCB方式

更新
2013年09月18日(水)

OCB方式について。

OCB方式【Optically Compensated Bend Mode】

OCB方式[1]は、ベンド配向の液晶パネルに光学補償フィルムを組み合わせ視野角を補償することでフルカラー化を実現した液晶方式です。1993年に内田龍男[2]氏らにより考案されました。
量産化は考案から11年後の2004年に東芝松下ディスプレイテクノロジー[3]が初めて行ないました。

基本説明

ocb_2.jpg
[画像1]液晶パネル構成。簡略図のため、表記していない部材があります。

OCB方式は、ベンド配向(後述)を用いた液晶方式です。
液晶に対して垂直電界を印加して液晶をスイッチングするため、アレイ基板[4]と対向基板[5]に透明電極を形成して、液晶層を挟み込む構造をしています(画像1)。

ラビング方向はアレイ基板側、対向基板側と同じ方向に行い、偏光板[6]は、アレイ基板側と対向基板側が“×”になるように配置します(画像1)。

ベンド配向は、基板に面している液晶分子は、常に基板に対して平行に配向されます。この状態をパイセル(pi-cell)といいます[7]

パイセルにより液晶をスイッチングするには高い駆動電圧が必要のため、TFT[8]などのスイッチング素子を使用することができません。このため、位相差フィルム[9]を用いて駆動電圧が高い配向を光学補償することで、低い駆動電圧でも表示することを可能にしたのがOCB方式です。これがOCB方式の名称にもなっている“Optically Compensated:光学補償させた”です。

また、ベンド配向の配列は対象構造をしているため、位相差フィルムのディスコチック液晶をハイブリット配向させたものを用いることで広視野角を実現できます(後述)。

ノーマリ・ブラック[10]、ノーマリ・ホワイト[11]のどちらでも選択可能ですが、黒表示時の表示品質からノーマリ・ホワイト方式が主に選択されます。

液晶にはネマチィック液晶(Nematic)が使用され、誘電率異方性が正の液晶(ポジ型液晶:Np)、負の液晶(ネガ型液晶:Nn)の両方を用いることが可能ですが、ポジ型液晶が主に使用されます。また、現在は安定性の問題からネマチィック液晶が使用されますが、スメチィック液晶(Smectic)を使用することでマイクロ秒での高速応答が可能になります。しかし、スメチィック液晶は配向安定性が低いこと、温度への依存性が非常に大きいという欠点があります。

ベンド配向

ocb_3.jpg
[画像2]ノーマリ・ホワイト時の電圧変化に伴う液晶分子の動き。

ベンド配向は、液晶を“弓なり”に配向する状態のことです。この配向は、1983年にBos氏らにより開発されました。

ベンド配向(ノーマリ・ホワイト)は、液晶分子に高電圧印加時に基板に面していない液晶分子が垂直に立ち上がり黒表示をし、低電圧印加時にベンド配向になります(画像2)。基板に面している液晶分子は、常に基板に対して平行に配向されます。この状態をパイセル(pi-cell)といいます。

ベンド配向は、電圧無印加時は安定的なスプレイ配向になります。スプレイ配向は液晶分子が基板に対してほぼ平行で、わずかに広がった状態のことです(画像4)。OCB方式ではこのスプレイ配向からベンド配向に転移させる必要があり、これが開発から量産まで時間が掛かった理由のひとつになっています。

スプレイ配向からベンド配向への転移は特殊で、ただ電圧を印加するだけでは転移しません。転移させるには、まずベンド配向を行なうための核を作り出す必要があり、この“核”が発生しない場合は、どれだけ高い電圧を印加してもベンド配向には移行しません。この核によりスプレイ配向からベンド配向へと変化していきます。

OCB方式の特徴

比類なき高速応答性能

OCB方式の大きな特徴は、他液晶方式に比べて応答時間が短いことです。“比類なき”と書いてますが、誇張ではなく、圧倒的な応答性能です。

ノーマリ・ホワイト時の白表示-黒表示-白表示での応答時間は長くても約5msであり、特に白表示から黒表示への応答時間は1ms以下と短時間での応答が可能です。他液晶方式であるTN方式[12]やVA方式[13]は黒表示から白表示、白表示から黒表示への応答時間が短く、中間調間での応答時間が長いため、中間調間での応答時間を改善するためにオーバードライブ駆動[14]を行ないますが、OCB方式では、一番長い応答時間は黒表示から白表示のため、基本的にオーバードライブ駆動は必要ありません。中間調での応答時間は明るい輝度から暗い輝度への応答時間は2ms以下、逆に暗輝度から明輝度への応答時間は5ms程度です[15]

この高速応答性能は、OCB方式の特徴であるベンド配向によるものです。ベンド配向は、液晶層の中央部分は基板に対して垂直に立っている状態で、電圧を変化させても少し配向が変化するだけです。電圧変化により、配向変化が起こる部分が少ないため、短時間で液晶の応答が完了します。

また、液晶分子が駆動した際に発生する“流れ(フロー)”も応答時間を早くさせます。液晶分子は長細い形状をしており、液晶分子が回転すると液晶分子の重心位置が移動するため、フローが発生します。他液晶表示方式では、このフローは応答時間を長くする要因ですが、OCB方式では逆に短くする効果を生み出します

現在では、安定性などから液晶分子にはネマチィック液晶(Nematic)が使用されますが、スメチィック液晶(Smectic)を使用するとマイクロ秒での高速応答が可能になります。しかし、スメチィック液晶は配向安定性が低いこと、温度への依存性が非常に大きいため、ネマチック液晶が使用されています。

耐環境性能

OCB方式は温度変化における表示安定性にも優れています。 液晶分子はその特性上、極端な低温、高温環境では応答時間が長くなります。-20度という極低温領域でのTN方式の応答時間は200ms以上とまともに表示されませんが、OCBは120ms程度で、耐環境性能に最適化されていると50ms以下で応答が可能です。なお、TN方式の極低温領域での応答時間は、他方式に比べてまだ短い方なのですが、OCB方式はそれ以上の高速応答です。

視野角

ocb_1.jpg
[画像3]OCB方式の液晶パネルの全方位視野角[18]

OCB方式の液晶層の構造は対称構造のため、位相差フィルムなどの光学補償フィルムを用いた視野角補償を行うことで広視野角を実現することができます。

光学補償フィルムには、ディスコチック液晶をハイブリット配向させたものとTACフィルム[16]を用いることで広視野角を有することができます。

特定視野角においては輝度低下は発生しますが、カラーシフト(色変化)は小さく、全方位の視野角45度(90度)においてのカラーシフトは0.02以下(Δu'v')です(画像3)。

OCB方式の欠点

スプレイ配向からベンド配向への転移

ocb_4.jpg
[画像4]ベンド配向とスプレイ配向。

OCB方式での大きな欠点はスプレイ配向からベンド配向への転移が必要なことです。

このスプレイ-ベンド配向転移には、液晶パネルを駆動させる回路以外に別専用回路が必要で、また通常の駆動電圧よりも高い電圧が必要になります。当然ながらこのようなスプレイ-ベンド配向転移用の電圧印加を必要としない方法も検討されています。

このような特殊な状態であるため、優れた特性(広視野角、短い応答時間)ですが、ほとんど製造されていません。スプレイ-ベンド配向転移が容易になれば、製造される可能性が出てくるかもしれません。

透過率の問題

ノーマリ・ホワイトのOCB方式では、明るい輝度で高い透過率を得るためには低電圧にする必要がありますが、電圧の印加が減っていくとベンド配向から安定的なスプレイ配向に戻ろうとします。

このため、スプレイ配向に転移する電圧までしか低い電圧にすることができず、高い透過率を得ることができません。これについてはフレーム周期ごとに黒を挿入する“擬似インパルス駆動”[17]によってある程度改善することができます。

注釈

  1. “Optically Compensated Bend”の略称で、“光学補償されたベンド配向”という意味です。
  2. たまに“龍夫”と誤記されている場合がありますが、“龍男”が正しいです。 この方は、液晶パネルの進化にたくさん寄与された方です。SIDと呼ばれる世界最大のディスプレイの国際学会でのSIDアワードではSID Special recognition Prize(1988年)、SID Fellow(1994 年)、SID Jan Rejchman Prize(2004年)、SID Slottow-Owaki Prize(2008年)の4度の受賞しています。これら以外でも日本おいても複数の賞を受賞しています。 OCB方式の開発以外には、加法混合(加法混色)の原理を応用したマイクロカラーフィルタ方式の開発です。現在広く用いられているRGBカラーフィルタを用いたカラー表示方法です。また、バックライトを使用せず、外光をパネル内部で反射させることによりカラー表示をするカラー反射型液晶パネル、時分割表示であるフィールドシーケンシャル表示の液晶パネルを開発したのもこの方です。これら以外にも液晶の配向の解明、制御方法の確立などがあります。
  3. 後に東芝モバイルディスプレイ、ジャパンディスプレイセントラルになり、現在はジャパンディスプレイです。ジャパンディスプレイについてはこちら
  4. TFTなどのスイッチング素子が形成されるガラス基板のこと。表示面とは反対側の基板のこと。TFT側基板とも呼ばれます。
  5. アレイ基板と対向するため、対向基板と呼ばれます。また、カラーフィルターが形成されるため、カラーフィルター(側)基板とも呼ばれます。表示面側のガラス基板のこと。
  6. 光の偏光(光の向き=光の振動)を一方向にする光学部材のこと。
  7. 光スイッチングによるCRTのカラー表示、立体表示に用いられたりしました。当時は駆動電圧が高く、TFTで駆動させることができませんでしたが、OCB方式で低電圧駆動が可能になりました。
  8. 薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor)のこと。液晶パネルでは各ドット一つひとつに形成して、スイッチング素子として利用されます。
  9. 光学的異方性を有する光学フィルムのこと。液晶層で変わった偏光特性を補償して、視野角特性を改善するフィルムのこと。位相差板とも呼ばれます。
  10. 低電圧印加時に黒表示を行ない、高電圧印加時に白表示を行なうこと。
  11. 低電圧印加時に白表示を行ない、高電圧印加時に黒表示を行なうこと。
  12. Twisted Nematic。液晶方式のひとつ。詳しくはこちら
  13. Vertical Alignment。液晶方式のひとつ。詳しくはこちら
  14. 中間調においての応答時間を改善するために、電圧印加を通常より多くする駆動方法のこと。詳しくはこちら
  15. 使用される液晶の種類にもよりますが、これらより短い応答時間のものもあります。ネマチィック液晶を用いたOCB方式でもマイクロ秒に到達しているのもあります。
  16. トリアセチルセルロース(Triacetylcellulose)のこと。偏光板を保護するフィルムに使用されます。
  17. 表示フレーム間に黒表示を挿入することにより時間積分作用を低減して、ホールド型表示で発生する動きぼやけを低減する駆動方法のこと。詳しくはこちら
  18. 東芝レビュー“高画質OCB液晶技術”より。

参考資料

  • 東芝レビュー“高画質OCB液晶技術”
  • NIKKEI MICRODEVICES Dec 2007 pp.187-198
  • ITE Vol.62, No.10 (2008) pp.1609-1613
  • ITE Vol.61, No.2 (2007) pp.179-182
  • 特開平7-84254

当ブログ関連リンク

初掲載:2013年8月11日20時31分39秒

関連記事

Tag:液晶パネル 解説 OCB方式